あるべき今と、これからの学童野球界をつなぐ輪『監督リレートーク』は、2ケタの10人まで広がってきました。最激戦区・東京の智将は最高学府の頂・東大卒で、野球においても感心なほど勤勉。そして次にバトンを托したのは、先のコロナ禍での自粛期間にチームを法人化し、翌夏に全国出場など、時代の先端をリードする埼玉県の賢将です。
(取材・構成=大久保克哉)
かどた・けんじ●1978年、北海道札幌市生まれ。父親の仕事の関係で、小学生までは愛知県や東京都など転校を繰り返す中で、東京・清瀬市のレッドイーグルス(現レッドライオンズ)で3年生から野球を始めた。札幌市立栄南中の軟式野球部では強肩の外野手として活躍。札幌北高では1年時にラグビー部、以降は勉学に専念して東大へ進学。2012年4月、長男がレッドサンズに入って1カ月後にコーチに。18年に次男らの2年生チームの監督となり、6年時の22年夏は全日本学童ベスト8まで導く。翌23年も6年生チームを率いて東京勢最高成績の同大会3位に。来たる24年度からは、三男らがいる4年生チームを率いることが決まっている
[東京・レッドサンズ]門田憲治
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岡崎真二
[埼玉・吉川ウイングス]おかざき・しんじ●1974年、広島県生まれ。中通少年野球団で野球を始める。2014年に埼玉県吉川市に転居し、3人の息子(当時・小5、小2、園児)が入団した吉川ウイングスで2015年から指導者に。低学年のコーチや監督などを経て、高学年の監督に就任した2021年に埼玉予選を制し、17年ぶりに全日本学童大会に出場(1回戦で大阪・長曽根ストロングスに5対8で敗北)。一方、組織の長として2020年5月にはチームをNPO法人に。年間3つのローカル大会を主催しつつ、行政と手を組んでの野球教室や地元の少年サッカーチームなどとの交流、SDGsの取り組みなど、野球だけに縛られない経験の場を子どもたちに提供している
10年超の全国観戦歴
私たちが住む東京では、毎年8月に全日本学童大会(マクドナルド・トーナメント)が開催されています。私はレッドサンズのコーチになった2012年から、毎年のように神宮球場などに足を運んで観戦してきました。
印象的だったのは2014年に初優勝した和気軟式野球クラブ(愛媛)。選手は10人ちょっと(計12人)で不動のオーダーのまま、逆転勝ちばかり。監督(甲斐清隆)は豪快でとても明るい感じでしたよね。あとは、ほとんどが5年生で優勝した曽根青龍野球部(兵庫)も驚きでした(2013年)。
2022年の全日本学童大会。コロナ禍ながら、東京・神宮球場での開会式は入場行進も復活した
全日本学童大会は「小学生の甲子園」とも言われていますが、一般のチームには遠い夢の世界。予選突破が困難で、存在そのものを知らない人も多いのだと思います。私も長男が野球を始めるまではよく知りませんでしたし、まさか自分も背番号30でそこに立てるなんて、当初は想像できませんでした。
一方、全国大会で勝つのがいかに難しいか、当時から私なりに感じてきたつもりです。衝撃的なくらいにハイレベルな選手もいるし、1点をめぐる高度な戦術や駆け引きもある。そこで采配をしている監督は大きな憧れでした。
博学で野球でも向上心が旺盛。2022年、ついに自らも全国大会で采配(写真は2023年)
私をこのコーナーに紹介してくれた豊上ジュニアーズの監督、髙野(範哉)さんも「雲の上の存在」。長らく、自分が一方的に知っている、というだけの人でした。
千葉代表で全国に初めて出場されたのが2016年。これもよく覚えています。この年は私の長男が5年生になっていて『来年は自分たちもここ(全国)に出たい!』と、初めてリアルな目標としながら観戦していたからです。
名将からの親身な助言
翌年(2017年)、自分たちのその目標は叶わず。でも髙野さんの豊上は2019年から2年連続で全日本学童3位など、変わらず「雲の上の人」でした。
その豊上と初めて試合をさせてもらった(※チーム同士の交流はそれ以前からあり)のが2018年。私は次男のいる2年生チームの監督になっていて、下級生の試合なので髙野さんはいませんでした。でも、私は当時から「豊上に追いつくぞ!」と、勝手に選手たちを鼓舞してきました。
2022年の全日本学童。東京勢にとっても最高成績タイの8強までチームを導いた
そして次男たちが5年生になるあたりから、髙野さんのトップチームと試合をさせてもらえるように。それからはもう数えきれないほど、胸を貸していただいています。次男たちの全日本学童ベスト8(2022年)も、翌2023年の同大会3位も、豊上との定期的な試合を抜きにはあり得なかったと思っています。
髙野さんは試合をすると、必ず助言をしてくれるんです。それも社交辞令的なものではなく、弱点でも何でも思ったことをハッキリと。「あのピッチャーは緩いボールは必要ないんじゃないか?」とか、踏み込んだ意見をいただけるのが希少で逆にとてもありがたい。
今では私が率いる学年チームも、あちこちの強豪チームと試合をさせてもらえるようになりました。でも、髙野さんのようにどこまでも親身に本音で話してくれる監督には巡り合えていません。もちろん、自分にもできることではないです。
2年連続出場の全日本学童、2023年は銅メダルに輝いている
今年から、私は三男のいる新4年生チームを指揮します。2年後の全日本学童決勝で、髙野さんの豊上と戦うのが個人の夢。そして絶対に勝ちたい(笑)。私は相当な負けず嫌いなんです。
おこがましいですし、髙野さんほどではありませんが、全国大会を勝ち切る難しさの具体的なところが、私にもようやく少し見え始めてきたという感じです。
時代のパイオニアへ
さて、私から紹介する吉川ウイングス監督の岡崎(真二)さんも、髙野さんと同じく学童野球界にとって希少な人です。
チームをまとめながらローカル大会を複数主催されていて、東日本を中心に人脈がとても広くてフットワークも軽い。私が出会ったのも2020年夏の「ウイングスカップ」に招かれたときでした。若々しくてスポーティでスマートだな、という第一印象は、その後も変わっていません。
熊谷グリーンタウン(埼玉)の斉藤さん(晃監督)、宮城の大崎ジュニアドラゴンの岩崎さん(文博監督)…今にもつながる交流やご縁のきっかけをいただいたのも岡崎さんです。年に1、2回は試合をさせていただいてますが、対面のベンチにいても、その存在感がわかります。
闘志を内に秘められているタイプで、試合中にガーガーと大きい声を出すようなことはない。それなのに、岡崎さんひとりがベンチにいるだけで落ち着いた雰囲気が出ているし、選手も迷いなくプレーしている。選抜チームが多い埼玉大会を単独チームで制して全日本学童に出場された(2021年)のも、納得です。
岡崎さんはまた、組織を法人化(特定非営利活動法人)して、SDGsの取り組みをされたりしている。そんなチーム、他にありますか? 単に野球を教えるだけではなく、学童野球を盛り上げるべく、啓発的な活動にも積極的。時代の開拓者なのだと私は思っています。
その行動力とネットワークはホントに素晴らしくて、頭が下がるばかり。私も岡崎さんのマインドセットを大いにマネさせていただきます。